世界一押しつけがましいタンゴアーティスト列伝vol.5[小松亮太]

なんか意外にこのコーナー人気あるみたい。ありがとうございます。こうなったらおじさん頑張るから。

今回は「電撃のリズム」の帝王、ファン・ダリエンソ(タンゴの指揮者)を紹介したいと思います。が、その前に言いたいことがひとつ。

もう10年くらい前からの現象ですけど、アストル・ピアソラの音楽が紹介されるとき「ダンスミュージックに過ぎなかったタンゴを、ピアソラが聴くための音楽に変革した。」みたいに書かれたりしてるけど、正直あんまりいい紹介のしかたとは思えないよね。確かにピアソラは超人だけど、他の人もかなりスゴいことやってたわけだから。
大体ピアソラと古いタンゴ、踊りのタンゴっていう単純過ぎる分け方もかなりおかしい。それはそれはいろんな曲やアーティストやアレンジが千差万別にあるんだし。
たとえば、ジャズと言ってもデキシーランドジャズを1曲聴いただけではジャズを聴いたことにはならない。ビル・エバンスだってサッチモだってシュテファン・グラッペリだっている。ひとつのジャンルを、まあまあトータルに知ろうとするだけでも結構な時間も手間もかかるはずでしょう。
クラシックと言ったって、バッハやベートーベンはもちろんクラシック。でもサティもガーシュインも武満徹も一応クラシック系と言われてんだから。ひとつのカテゴリーの中に更にいろいろなカテゴリーがあるんですよ。

残念だけど、タンゴは短絡的に捉えられることが確かに多い。
「ピアソラの先輩?じゃあすごい人なんだろうね?CD買ってみるか」みたいな人に、ほとんど会ったことがない。
リベルタンゴのピアソラさんはスゴいんだろうけど、あとは古臭いタンゴなんじゃないの?…みたいな先入観だが強く浸透してるようなな感じ。

まあこれには根深い歴史があって、あるヨーロッパのイージーリスニング系アーティスト(名前は伏せておく)が、本来は特殊な演奏法や、捻ったメロディーだらけのタンゴを「いかにも簡単な大衆音楽」っぽく改竄して売り出して成功したんだよ。南米以外の世界中の人々が、「これがタンゴなんだ」と一度は思いこまされちゃった時代が確かにあったんだよね。それが未だに尾を引いている。
まあ誰がどんな音楽を売ろうと、それはもちろん自由なんだけど、あれはタンゴというジャンルにとって、ちょっと痛かった。

「単純なようで実は奥深い」はずのジャンルが、「いかにも単純な音楽」としてアピールされて、それが売れてしまった。

その影響が今でも世界中にうっすら残ってる。そこに90年代半ばのピアソラブームがきたもんだから、「ピアソラや、彼以降のタンゴは立派で難しいんだろう、ピアソラより昔のタンゴは古臭いし簡単なんだろう」なんていう話になっちゃってるわけ。でもそろそろそんなレベルの誤解は払拭しなきゃね。

で、なぜ今ファン・ダリエンソを紹介するのか?
つまり先ほど書いたヨーロッパの誰かさんと、ファン・ダリエンソみたいな巨匠を一緒にしちゃいけませんよ、と言いてえんですよ!正味な話!!

D'ARIENZO-ORQ-1970s.jpgTS2A0097.JPG




「ピアソラは素晴らしいと思うけど、ダリエンソの何が素晴らしいのかわからない」っていう人は、残念ながらまだ耳が肥えてないと言える。
ダリエンソの悪口言うのは簡単ですよ。なんの曲をやっても同じようなアレンジじゃないか、ワンパターン過ぎるじゃないか、etc…。
ダリエンソの芸風は確かに聴いてる分には単純明快。でもさっき紹介したヨーロッパの誰かさんとは絶対に違う。そんな生易しい音楽じゃないんです。

ダリエンソのファン(主にオールドタイマーのファン)とピアソラのファン(主に最近タンゴファンになった人たち)は源氏と平家みたいにはっきり分かれてるみたいだけど、僕は両方とも好きですけどね。もちろんパフォーマンスは全然違うけど、興奮剤打たれた馬が暴れてるような勢いというか、過剰なまでの殺気というか…何だかんだ言ったって同じジャンルなんだなぁっていう気がしますけど。

僕はダリエンソ・スタイルのタンゴはやらないですよ。本当はやってみたいけど、出来ないんだよ。弾けないんだよ!あんな難しいの出来ないよ!
ファン・ダリエンソさんがやってた演奏っていうのは、まずはとにかく、「うまい」こと、それが命なんですよ!
「ちょっと間違いもあったけど素晴らしかった」とか「誠実な感じだったから」「一生懸命だったから」なんていうサイド・ストーリーは認められない。ちょっとでも間違いがあったら「ダメ!」。アンサンブルが乱れたら、音程が外れたら、
「とにかくダメなもんはダメ!」。

なぜならファン・ダリエンソ楽団の音楽性には、「物語性」が全然ない。極めてシンプルに、音そのものの面白さ、迫力、うまさだけををひたすら追及する世界。完全な贅沢品であり嗜好品なんですよ。

いくら一生懸命やったところで、ちょっとでもミスをすれば減点されてしまう体操競技と同じ。技術即ち芸術だと思ってる世界。

逆に、「物語性」が強い楽曲は、時として演奏技術の不足を補ってくれる。それこそピアソラの曲は、まあまあ普通にやれば作品が雰囲気を作ってくれる。一生懸命やれば多少の間違いや未熟さにも情状酌量の余地が生まれる。ところがダリエンソ・スタイルの音楽はそうはいかない。

アルゼンチンでも日本でも年輩のタンゴファンの間では、「ダリエンソこそがタンゴの代名詞的なアーティスト」みたいな言われ方をすることがあるけど、僕はそんな風には思わない。なぜなら他のタンゴアーティストが持っているタンゴ的要素…簡単に言えば、悲しみや懐かしみや苦悩といった情緒的な要素を確信犯的にバッサリ切り捨ててるところがあるから。
あくまでダリエンソさん個人が編み出してタンゴファン(特にダンスファン)にアピールしたものだと思うんですよ。
やっぱり彼はタンゴミュージックの中の「ある部分」を抽出して濃縮してデフォルメして売り出したタイプの「極端型アーティスト」だと思いますよ。だからダリエンソがタンゴの代表っていうのもちょっとね…。まあ最近ピアソラがタンゴの代表みたいに言われてるのもほんとは相当ヘンな話なんだけどね。

今まで書いてきた話は1940年代から60年代のダリエンソです。初めてダリエンソを聴く人には、Youtubeでもなんでもいいから「映像のダリエンソ楽団」を見て欲しい。CDで聴くだけだと演奏が完璧すぎてすぐには感動出来ないかもしれないから。
つまり難しそうに弾いてる感じが全然ないから、簡単なことをやってるかのように誤解される危険があるんですよ。逆に言えばそれぐらい技術に余裕がある人たちが弾いてるわけ。


異常なほど歯切れのいい5台のバンドネオンが超絶技巧で暴れたかと思うと、つんのめったピアノがカミソリみたいに切り込んで来る。バイオリンが過剰なビブラートで悲しくもないのにすすり泣く。絶対にごまかしが利かないシンプル過ぎるリズムを10数人でピッタリ合わせてる様子はさながら北朝鮮の軍事パレードを見てるような感じ。冗談じゃなくて本当にそれぐらい息が合ってる。ものすごくスポーツライクな音楽だよね。

この社会主義国的なアンサンブルを司っているのは紛れもなくダリエンソ御大。彼は楽器を弾いてるわけじゃないし、アレンジを提供してるわけでもない。でも彼が腰を屈めてメンバーを睨み付けながら手を振り回すだけで、何かがクリエイトされてるんだよ。とにかくダリエンソは映像で知るべし。
彼自身は夜のミロンガ(ダンススポット)の王者だったわけだから、太陽を10年以上見たことない時期もあったらしい。でも僕は個人的には昼間にダリエンソを聴くのが好きだな。徹底的にリズムの気持ちよさと肉体的技術を突き詰めた音楽だから、理屈抜きに明るく聴けるんですよ。
オスバルド・プグリエーセはダリエンソを尊敬していたし、アニバル・トロイロは少し嫉妬してたらしい。ピアソラは「暴力的で何の風情もない」って悪口言ってたらしいけど、晩年には認めていた。エドアルド・ロビーラはダリエンソが亡くなったときの追悼番組で「ダリエンソが死んだ?生き返らないように気をつけよう」とか言ってファンから猛攻撃を食らったらしい。

まあそれだけビッグなカリスマだったってことです。

個人的なおすすめトラックっていうか僕が好きな曲は 、「フェリシア」(Felicia) 「ラ・ビコーカ」(LaBicoca)「コントラ・ルス」(ContraLuz)あたりだけど…CD買うのもいいけど、とにかく映像を先に探してくれ!
60年代のウルグアイでのスタジオライブのビデオはもう廃盤だろうな…。

Youtube行ってみよ!いい映像見つけたらコメント欄に情報頼んます。
http://www.youtube.com/




2007-10-17 11:48 この記事だけ表示 |コメント 5 |トラックバック 0
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さっそくYoutubeの映像です。
いくつかあるので、ダンスや歌が入っていないものだけ載せます☆

http://www.youtube.com/watch?v=Zl_6VugokPw

http://www.youtube.com/watch?v=O4WSdg_ntDk

http://www.youtube.com/watch?v=cJdlUGat0yI

みずき(2007-10-18 00:39)
みずきさんが貼ってくれたものの中では真ん中のやつが、一番ダリエンソの本領が発揮されてます。「LOCA」っていう曲です。クレイジー女っていう意味の曲。ダリエンソ笑っちゃうくらいカコイイ。
小松亮太(2007-10-18 14:35)
まず映像を見てっていう意味が実際見てよくわかりました。熱い!!演奏してる人たちもすっごく楽しそう。

みずきさんが載せて頂いたもの以外で、これは歌入りですが、歌手にもたたみかけるダリエンソさんが熱いです。

http://www.youtube.com/watch?v=aPfTkIlclh8&mode=related&search=
りんちゅう(2007-10-18 19:11)
行ってみましたYoutube!

いやぁ凄いですね〜ダリエンソさんの映像。失礼ながら、見た目あんなお年であの中腰、あの指揮、気迫…。メンバーを睨みつけ、手を動かしながらなにか「気」のようなものを送っているかのようです。すごいカリスマ性を持った方だったことがよく分かる映像ばかりですね。

太陽を10年以上見ていないというのもすごい伝説!もし家族だったら「身体に悪いからやめて」と言いたくなっちゃいますが^^;
それだけ夜のミロンガにとってなくてはならない存在だったということですね。

ロビーラさんの「生き返らないように気をつけよう」という発言は、ある意味最大級の賛辞だと思います(^0^)
かず(2007-10-19 14:43)
この「ナーダ」という曲をダリエンソがやってる映像は初めて見ました。歌手はやり易くはないだろうな(笑)。
小松亮太(2007-10-19 23:47)
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