ポーチョ・パルメルさんのこと[日々の様子]

黒ハート99年にツアーとレコーディングでご一緒したバンドネオン奏者のポーチョ・パルメル氏が(Pocho Palmer)65歳で亡くなったそうです。

るんるんかなり荒削りな中に独特な柔らかさを持ったバンドネオンでした。明らかに現在の50代以下のバンドネオン奏者たちには見られない、良い意味で「昔の人」のフィーリングを持った最後の人……と言ったら言い過ぎかもしれませんが。

とにかく素晴らしいプレイヤーでしたが、正直に言って狭い狭いタンゴの世界においてさえ、全く有名人ではありませんでした。

しかし彼のように、本物でいながらにして、その音楽性を誰かに具体的に論評してもらえるわけではない(亡くなったときですら!)人について書き留めておく使命感にかられながらこのブログを書いています。

ぴかぴか(新しい)ポーチョさんは80年代末期〜90年代半ばまで、ピアニストのオマール・バレンテ氏のサポートメンバーとしてたびたび来日していました。

オマール・バレンテ氏のオルケスタで弾くポーチョさん(ギターの左隣)1990年頃?
曲はO・マデルナ作曲/バレンテ編曲「星の雨(直訳)」
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http://www.youtube.com/watch?v=tedtt6yQSqA

まだバブル崩壊の初期だったから、地球の裏側のミュージシャンを長期間滞在させて生演奏を提供する贅沢なライブハウスが六本木に2軒ほどあって(今では信じられない)、そこに滞在したバレンテさんやポーチョさんには楽譜をいただいたり、アドバイスをいただいたり、ちょこちょこお世話になっていました。

当時20代前半だった僕は、どうしても先輩バンドネオン奏者に現場で鍛えられる経験をしてみたかったし、それを仲間にも経験させたかった。本場のいろんなバンドネオン奏者をリサーチする中で、紆余曲折を経てポーチョさんにたどり着いたんです。最初はもっと若い人に狙いをつけていたんですが、音楽的にはむしろラッキーでした。

ビールで、一緒にツアーした後レコーディングしたのがこれ。99年の「来たるべきもの」。
ポーチョさんも大変だったし、昔のボロボロの音源から譜面を書き起こした僕も大変だったけど、何しろギターの鬼怒無月さんが大活躍で重労働でしたね。
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http://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E6%9D%A5%E3%81%9F%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%80%8D%EF%BD%9ELo-Que-Vendra-%E5%B0%8F%E6%9D%BE%E4%BA%AE%E5%A4%AA/dp/B00005G870
アストル・ピアソラの1950年代の「オクテート・ブエノスアイレス(ブエノスアイレス八重奏団)」をコピーして再現するというクレイジーな企画で、これはいつの間にかアルゼンチンのミュージシャンの人たちにも知られていたようでした。


黒ハート改めて考えてみればポーチョさんは音楽的に、そして世代的に独特なポジションにいた、と言えるかもしれません。というのは、現在60歳台半ばの人というのは、ざっくり言ってしまえば世界中(特に共産圏以外は)どこの人も基本的にはビートルズ世代です。新しい音楽性に世界が震えたと同時に、(敢えてネガティブに考えれば)音楽の世界からローカリティーが失われ始めた頃が青春時代だった世代。

「演歌を聴かない日本人」がたくさんいるように、「タンゴをよく知らないアルゼンチン人」なんて、珍しくもありません。世界中が良くも悪くもグローバル化する中、ローカル色の強いアートの弱体化はどこの国でもあることですが、特にタンゴはひどかった!

しかもタンゴの場合、ファンを他国の音楽や娯楽に奪われる→奪い返す、という戦いは、ビートルズのブレイク時に始まったことではなく、1920年代あたりからず〜っと繰り返しあったことなんですよね。

元々はタンゴとは無関係なバンドネオン(ドイツ製)が入っていることからもわかるように、移民が「わざわざ作った」タンゴには民族的な(DNA的な)、自然発生的な根っ子は余りない。しかもジャズ等と違って、「基本的にはブエノスアイレス限定」という地域的な小ささには、「ここが潰れても他がある」という強さがありません。外国に広まったタンゴの大半はイージーリスニングに改竄されてしまっていたし…。

ちなみにアルゼンチンで土着的に根付いてる音楽と言えば、約40種類以上あると言われる各地特有のフォルクローレ(フォークロア)。ここにはモンゴロイド(いわゆる先住民のインディオ)の音楽性と強く結び付いたものも結構あるけど、タンゴの場合は8割方は移民の白人だけで頑張って作った感じ。ラテンアメリカのポピュラーミュージックなのにパーカッションを基本的には入れないのがその証拠。

exclamationそういったわけで、ポーチョさんという人物を改めて考えてみると、やはりタンゴミュージシャンのブランク世代だったんだなぁと感じます。確かに彼と同世代で「タンゴ野郎!」っていう感じの人はあまりいない。というか、そもそも彼と同世代のタンゴ人がパッと思いつかないぐらい絶対数が少ない。

つまり彼はタンゴ全盛期の真っ只中(1940〜50年代)の大編成オルケスタで先輩たちに揉まれた経験はない。その代わり彼には、若い頃(60〜70年代?)にポリーチェ(タンゴの小さなライヴハウスというかバー)での実戦で鍛えられた生粋のタンゲーロ(タンギスト)としての強みがありました。

タンゴ的にはピアソラの息子世代で、世界的にはビートルズ世代でありながら、(現在70歳前後の著名なタンゴミュージシャンのように)ピアソラに影響され過ぎた形跡は全然ない。むしろピアソラの更に先輩の世代(J・アウマーダとかC・ガルシーア等)から可愛がられたことで、限りなく全盛期経験者のおじいちゃん達に近いスキルと音楽性を持つ稀有な存在でした。(でも現実にビートルズ世代であることは確かで「オーバー・ザ・レインボーを聴くと胸がちょっと痛くなる」って言ってたな)。

ぴかぴか(新しい)具体的に昔ながらのタンゴミュージシャンの強みを説明すると…

★ある程度有名な曲であれば、詳細なアレンジ譜が用意されていなくても即興的に演奏できる。歌の伴奏も、歌手に合わせて様々なキーで即興的に伴奏できる。

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そのスキルを応用して、アレンジされた譜面を弾く際にも、楽譜に書いていない(記号化できない)フィル、フェイクを加えて、いわゆるヘッドアレンジ的に様々な色付けをすることができる。

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更にそれらの経験値を生かして、既成のアレンジ譜面に変更を加えたり、様々な音楽的アイデアを追加してオリジナリティを高めることができる。

黒ハート99年前後、ポーチョさんを日本に呼んで一緒にツアーしたりレコーディングしていたときは、「な〜るほど、譜面に書いてなくてもこんなことやっちゃえばいいんだ!」とか「こう弾けばこう聞こえるんだ!」みたいな発見の連続でしたね。楽譜に書かれたアレンジの面白味と、個々のプレーヤーが持つタンゴ的スキルとのブレンド、ぶつかり合いがタンゴを聴くときの一番の醍醐味なんだと痛感しました。

そもそも、あらゆるポピュラーミュージックの世界では、こういった「楽譜に書けない(書かない)」音楽的センスやスキルは、常に一人一人のプレイヤーに求められるものです。しかしタンゴの世界で、生演奏を聴かせる小さなクラブやバー(観光客向けではない)が劇的なほど減少した今、ミュージシャンたちは、「現場の経験」でそれを体得するチャンスになかなか恵まれないわけです。

更に「ピアソラのタンゴの演奏にはそういったタンゴ・スキルを必要としない」という誤解が世界的に定着してしまった現在なので、なおさら楽譜に書けないタンゴの《技》は、日いち日と消えつつあるわけです。と、決めつけてもいけないんですけど…

exclamation本当はポーチョさんみたいな比較的若くて昔ながらのスキルと味を持った人が早世したことは、ただでさえ小さなタンゴの世界にとって損失であるのは確か。昔ながらのタンゴ野郎としてのパフォーマンスを65歳にしてナチュラルに体現してくれたポーチョさんは、10〜20代の人にとっては(実は)大きな存在だったように僕には感じられるんですが。

ぴかぴか(新しい)最後にポーチョさんがトリオで演奏したフリアン・プラサ作曲の「ダンサリン」
http://www.youtube.com/watch?v=maCRcoH8O2A

↑↑↑↑↑↑この演奏、よーく聴いていると細部がところどころアバウト。でも全体的にはバッチリ音楽になっている。多分これは、ちゃんとアレンジを書かないで、彼お得意のヘッドアレンジ(タンゴの業界用語でパリージャ)でやった演奏ですね。

たらーっ(汗)また長くなりました。ポーチョさんと出会ったところからず〜っと書いてみようかと思ったけど、いくら何でも長くなるからやめときます。いろいろあったなぁ(遠い目)。

ポーチョさんのご冥福をお祈りします。


◆4月12日(土)ライヴ・イマージュ ヌーボー

ミューザ川崎シンフォニーホール
http://www.tvk-yokohama.com/asia/


◆4月26日(土)〜5月18日(日)ライヴ・イマージュ

川口 名古屋 大阪 神戸 福岡 福山 長崎 東京
http://www.liveimage.jp/

◆6月14日(土)
東京あきる野市 秋川キララホール
小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆6月25日(水)
台湾・台北市ナショナルシアターコンサートホール
小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆7月15日(火)19時

板橋区立文化会館

ピアソラ「ブエノスアイレスのマリア」全曲

お問い合わせ:コンサートイマジン0332353777(発売は3月)

◆7月18日(金)19時

なかのZEROホール

ピアソラ「ブエノスアイレスのマリア」全曲

お問い合わせ:コンサートイマジン0332353777(発売は3月)

◆7月21日(月・祝)

八ヶ岳高原音楽堂小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆8月9日(土) 会津若松市文化センター
小松亮太トリオ/L・ブラボGt/田中伸司Bs


◆8月30日(土)15時

よみうり大手町ホール 小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆9月20日(土)18時長野県 松本ハーモニーホール小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆9月23日(火・祝)15時伊丹アイフォニックホール

小松亮太 (バンドネオン)近藤久美子 (ヴァイオリン)鈴木厚志 (ピアノ)天野清継(ギター)田中伸司 (コントラバス)

◆11月15日(土)よみうり大手町ホールバンドネオンによるブルックナー交響曲第8番
2014-03-24 18:32 この記事だけ表示 |コメント 2 |トラックバック 0
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Pocho Palmerさんのご紹介ありがとうございました。
また亡くなられたとのこと、とても残念です。
先日、NHKの再放送でアルゼンチンタンゴの番組があり、Pocho Palmerさんがバンドネオンの修理工房でインタビューされているところを見て、とても気になっていました。彼はバンドネオンについてこう語っていました「バンドネオンの音色はビブラートがかかっている。蛇腹でもアコーディオンは平坦だ。そこが違う。音が出たとたん震えているのだ。だから心に響く」と。ぜひ、生で聞いてみたいと思っていたところだったのでとても残念です。合掌
Manuela(2014-03-24 23:44)
長文の中に、亮太さんのポーチョ・パルメルさんへの、熱い哀悼の気持ちが溢れていますね。私は今日、ポーチョさんと知り合いました。来たるべきものを聴いてみましょう。
柊子(2014-03-30 13:40)