ブエノスアイレスのマリア総論[日々の様子]

アストル・ピアソラの大作「ブエノスアイレスのマリア」とは何なのか…?

ぴかぴか(新しい)まずこの曲の特徴は、長い!というか曲が多い!最小でも14名編成で約90分かかる大曲です。

リベルタンゴの作曲者としてすっかり有名になったアストル・ピアソラですが「ブエノスアイレスのマリア」は彼が作った曲の中でも実のところ一般的な知名度はほとんどありません。この中の1曲「フーガと神秘」だけはちょっと有名ですが。

長い!&知らない曲だらけ、というばかりではお客様もツラいでしょう。当日のプログラム解説を読んだだけでいきなりライヴ初体験というよりは前情報をいろいろ持っておいて損はないと思います。

なので僕なりに噛み砕いて皆さんに説明させていただこうかとパンチ


おっとその前に。


揺れるハートピアソラのオペラ「ブエノスアイレスのマリア」江古田バディで全曲やります!揺れるハート3000円でご奉仕!!!!

★6月24日(月)
18:30オープン19:30スタート
会場:江古田Buddy 西武池袋線 江古田駅の南口を出てスグのゲームセンター地下のバディ(Buddy)です。
http://www.buddy-tokyo.com/map_l.html
バンドネオン小松亮太 ボーカルSayaca/KaZZma ナレーター片岡正二郎 ピアノ黒田亜樹  ベース田中伸司 バイオリン近藤久美子/谷本仰 ビオラ吉田有紀子 チェロ松本卓以 フルート井上信平 ギター鬼怒無月 パーカッション佐竹尚史/真崎佳代子

◆前売りご予約¥3,000.当日¥3500(ともに1ドリンクつき)
ご予約:03-3953-1152 バディ

そして29日の東京オペラシティ公演は完売しました。ありがとうございます!

るんるんこの曲はオペラ(ピアソラ曰くオペリータ)というか実質的には組曲と言っていいでしょう。1960年代後半に、詩人オラシオ・フェレールとピアソラが強力なタッグを組んで完成させました。

ブエノスアイレスという特殊な街の世界観を、タンゴを擬人化して表現しながら歌い上げる、という趣向なんですが……

この曲の歌詞やナレーションっていうのが、本っ当に難しいんだよ!がく〜(落胆した顔)

何しろストーリーなんてものは無く、もう何を言ってるんだか、整合性や起承転結を求める人にはほぼ支離滅裂の意味不明ワールド。

「お前がどこにいようとも私は狂気の力で型破りな讃美歌の如く響かせよう。盲目の老人がお前に捧げるバイオリン第三弦の音」

だの

「再び生まれれば罠がわかるだろう。マテ茶の樽に潜む罠。靴から見る空の穴にも降らない雨。その一滴にも罠。過去の時にも罠があることを」

だの

「でもそうなんだマリア、そういうことなのだ。私は愛している。光の発作で熱い九つの狂った月の目配せ。笑いと出産の夜通しパーティー。センチメンタルなウインク」

だのだの…

アルゼンチンの人に言わせると「いや、意味はわかんないけど…すごくイイんだよね黒ハート」っていう答えがかえってくる。

その証拠に、オラシオ・フェレール氏は今もお元気で(ピアソラよりずっと年下)、自分がナレーターとして出演するときは言葉を増やしたり減らしたり、今でも好きなように改変を加えていて、つまりどこかの一句が変更されたからといって意味が通らなくなるという性質の詩ではないんです。

いわゆるシュールな作品というか、例えばブラジルの映画「黒いオルフェ」なんかを違和感なく観られる人や、宮澤賢治の世界観が苦にならない人はこの詩の世界に浸れるでしょう。

くれぐれも字幕を見ながら「それ誰?」とか「それ何?」とか考えないことが大事です。詩なんだよ、黒ハートポエムなんだよ!

とはいえ、ここから先は僕の個人的な推測ですけど…ちょっと【暗号めいたもの】も感じますね、この詩には。

というのは、この曲が出来た1960年代っていうのはアルゼンチンの軍事政権がいよいよ台頭し暗躍し始めた時代。その後80年代前半まで軍事政権の独裁制は続きます。

タンゴの歌曲っていうものは、ただでさえスラングだらけなところへもってきて、こんな時代に出来た「ブエノスアイレスのマリア」なんていう作品が政治や社会批判とも無縁なはずがないわけで、この抽象的な詩の中には、「その時」ブエノスアイレスにいた人にしか伝わらない暗号(裏メッセージ)も多かれ少なかれ入り込んでいるんじゃないかと……だとしたら、スラングはもちろん、その時期限りの流行語だって入ってるかも知れないし、その当時でもある程度の知識層にしか伝わらなかったジョークや皮肉もあるかも知れないし……

第二部の4曲目『精神分析医のアリア』みたいな、誰にでもそうと分かるブエノスアイレス社会の誉め殺しみたいな、ヤケクソに盛り上る面白い曲もありますけどね。

ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ちょっとこれを見てください。つい先月のニュースで、ビデラという元陸軍司令官が亡くなったニュースですぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)
http://ips-japan.net/index.php/news/politics-confict-peace/1103-videla-dies-in-prison-a-victory-against-impunity

恐ろしいですよね。70年代後半〜80年代前半まで一般市民を誘拐、殺害、拷問。要するに国家テロの首謀者と言われてる人です。
70年代〜80年代前半は良家の令嬢が部屋から突然姿を消しただの、社会批判的な歌を歌ったアーティストが拷問を受けただの怖い話はたくさんあって、行方不明者が3万に上るらしいですからね。

僕は20年近く前、船内演奏の仕事で客船に乗ったんですが、その時の船長さんが70年代のブエノスアイレスの港に停泊したときの話をしてくれたことがあるんです。70年代のアルゼンチンは60年代の軍事政権が更に加速した本当にヤバかった時代。

船内のテレビを見ていたら地元の放送が入ってきて、海岸に黒い布を被った人がたくさん並んでいる。何が始まるのかと思ったら爆弾スタタタタタタタ爆弾…と銃声がして、黒い布を被った人たちがバタバタと倒れて「はい、生中継終わります」。不満分子の粛清というものだったんでしょうか?がく〜(落胆した顔)

ちなみにこの船長さんはブエノスアイレスの街に出て、ピアソラのライヴを聴いて灰皿にサインしてもらったそうでするんるん

つまり普通の日常生活は送れるけれども、ちょっと目をつけられたら突然死と隣り合わせになる時代…。

もちろん、「ブエノスアイレスのマリア」は政治的作品じゃありません。ただ、タンゴをテーマにした哀しくも美しい物語…というほどシンプルなものでもないのは確かだと思います。

何しろアルゼンチンは移民国家です。大昔には経済的にも文化的にも豊かなインテリ層の移民(例えばボルヘスとか)もいましたが、一方では自分の国で切羽つまってやむなく引っ越してきて、常に望郷の念や疎外感、猜疑心にとらわれながら生きる人たちが、良くも悪くもドラマを織り成しながらブエノスアイレスという首都を形成していたわけです。そしてその移民としてのコンプレックスやアイデンティティー探しの中で自分たちの「タンゴ」という音楽ジャンルを人工的に作った(つまり自然発生的な民族音楽ではない)。

アルゼンチンには先住民(いわゆるインディオ)、ヨーロッパの様々な国からの白人の移民、東洋系移民がいて(黒人は今は全くと言っていいほどいない)、昔のヨーロッパ系のブエノスアイレスっ子には「俺たちのアイデンティティーは何なの?」「自分たち独自の文化が欲しい!」という「自分探し状態」があったそうです。

僕のアルゼンチンの知人だけ見渡してみても、名字を見ればヨーロッパの何処の血を引いてるか大体わかります。

レオナルド・ブラーボさん(ギター)はイタリア、カーチョ・ジアニーニ(バンドネオン)もイタリア。いかにもなイタリア名字!

アリエル・アッセルボーン(ギター)はドイツ。ビクトル・ラバジェン(バンドネオン)はフランス・バスク。
イグナシオ・バルチャウスキー(コントラバス)は父方がロシアで母方がスペインのユダヤ系。
ホルヘ・ダ・シルバ(録音エンジニア)はポルトガル、ダミアン・ボロティン(バイオリン)はウクライナetc…

タンゴ創成期、イタリア系の人は故郷の民謡やカンツォーネ的な歌を歌っただろうし、スペイン系の人はもちろんギターを弾いただろうし、東ヨーロッパ系の人、フランス系の人、北欧系、ユダヤ系…それぞれ皆が自国の音楽を持ち寄ってミックスして段々タンゴの形が出来てきた。しかもそこへドイツ系の人がバンドネオンを持ってきた。

バンドネオンみたいなドイツで発明されて間もない楽器を突然取り入れたのも、「わざわざ作った音楽」であることを象徴しているような気がします。

「ブエノスアイレスのマリア」には、そうした移民たちの望郷の悲哀、虚々実々、屈折したプライド、社会への憤激などなどが、タンゴに重ね合わされながら、そしてキリスト教的な名称や語句と語呂合わせされながら(この辺は俺らはヨーロッパ人!的なプライドを感じる)語られる作品なんです。

……っていう説明で間違いはないんでしょうか?

詳しい方、僕が間違いを犯していたらご指摘よろしくお願いいたしますあせあせ(飛び散る汗)

次回は詳しい各曲の解説をしようと思います。
2013-06-10 10:00 この記事だけ表示 |コメント 1 |トラックバック 0
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亮太さん、マリアの詳しくおもしろい解説ありがとうございます。タンゴが生まれた歴史、文化、土壌が分かってこそ、タンゴのもつ色、温度が見えてくる気がします。「若き民衆」のとき「詩」の難解さにつかまってしまったので、今度はたゆたうように聴きたいと思います。
柊子(2013-06-11 12:21)
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